有期雇用従業員の雇い止め撤回の要求があった事例
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- 集団的労使紛争の内容およびユニオンの要求事項
有期雇用従業員の雇い止め撤回の要求
組合員事務所の供与、掲示板、就業時間中の組合活動要求 - 会社の業種および規模
自動車部品製造業
本社 正規従業員数12名 パート従業員3名
工場 正規従業員数3名 期間雇用従業員12名 - 組合概要および組合員
東海地区を拠点とするユニオン 組合員数 期間雇用従業員5名
- 紛争内容
20XX年3月X日 会社が生産調整のために、3ヵ月毎に契約期間を更新している期間雇用者10名を、当該雇用期間の次の次の満了日である9月末日に雇い止めを行いたいが、対象者が加入するユニオンから抗議文が届き、対応に苦慮しているとのことで相談に来られた。
解決までの道のり
社長から話をお伺いしたところ、対象者10名のうち5名は、元々派遣社員として受け入れていた者で、2年前に直接雇用し、その協議時に外部ユニオンにこの5名が加入した経緯があった。
会社が選定した10名に対して、3月中に個別および全員に対して、「今回の3月末と次回の6月末の更新は行う予定だが、9月末で雇い止めとすることになるので、6月末が最後の更新とする」旨の説明をしたところ、組合員のうち2名が絶対納得できないと主張してきた。
申し訳ありませんが、9月末をもって皆さんは雇い止めとなりますので、6月末が最後の契約更新となります。
ダメーッ! そんなの絶対に納得できませんよ!!
その後、ユニオンから『組合員の労働条件等については、ユニオンと事前協議、事前合意をするのが当然であり、今すぐ雇い止めを撤回し、条件を付けずに雇用契約を更新すること』という抗議文および要求書が届いたとの連絡が、会社から当職に入った。
雇い止めの理由と、御社ではこの件については、どうしたいのですか?
受注が落ち込んでしまって、このままでは来年まで持たないかもしれない。
今後は製造から撤退して、随時ファブレス化を進めていくことを決定したので、現場の10名の従業員の雇い止めは避けられません。
なるほどそうですか。それは心配ですね。
それでは、今後は次のことに注意してください。
まず、非組合員については、今後とも丁寧に実情を説明して、期間満了退職の合意書を取り交わすことが必要です。その上で、組合員を増やさないことです。
会社は経営状態の悪化から、今後は製造から撤退してファブレス化を進めることで工場が不要となるため、現場従業員10名の雇い止めは避けられないとのことであった。
そこで、当職は会社に対して次のように助言を行った。
- 非組合員には、丁寧に実情を説明して、期間満了退職の合意書を取り交わすこと
- 組合の組織化が進み過半数になると、解決の難易度が2ランク上がること
なぜなら、当該工場事業場の従業員数は15名であり、過半数は8名である。もしも、今後を心配した非組合員が3名以上組合に加入するとなると、現在の組合員5名と合わせてユニオンが過半数を占めることになる。
そうなると、36協定の締結当事者がユニオンともなれば、締結拒否や、条件闘争に巻き込まれる可能性が生じるためである。
ただし、36協定の締結日は3月31日ということなので、当面この点は気にしなくて良いことが分かった。
次に、ユニオンから通知された、組合員の労働条件等の事前協議、事前同意について抗議している件について、会社に「過去、ユニオンと書面による約束(「労働協約」という)をした経緯はあるのか?」と尋ねたところ、一切していないという事であった。
この文言の入った労働協約があれば、この抗議は「頭越し交渉」として一理はあるが、労働協約が存在しない以上、ユニオンの抗議は失当であることを説明した。
その上で、組合員5名の雇い止めについて、会社からユニオンに対して回答書を送付することにした。
御社はこれまでに、ユニオンと労働協約などの書面による約束を締結したことはありますか?
いいえ、とんでもありません。そのような約束は一切していません。
そうですか、それは良かった。
労働協約が存在しないのであれば、ユニオンが抗議している事前協議や事前同意については、法的にも契約的にみても必要ありません。
それでは、当職がユニオンに対する回答書の草案を起案しますので、内容をご確認いただき、御社からユニオンに送付してください。
回答書の内容としては、
- 頭越し交渉であるとの抗議については、ユニオンが理由とする内容の労働協約が存在しないので、抗議自体が失当であること
- 会社の業績悪化による雇い止めの撤回は行わないこと
- ユニオンとの協議を通じて労働争議に発展することを避けて円満に解決する用意があること
以上の内容と共に、会社の業績数字を詳細に文書化し、併せて会社から団体交渉の申し入れを通知したところ、ユニオンからは以下の回答があった。
- 契約終了ありきの状態で団交はしない
- 団交開催の前提として6月末の契約は無条件で更新すること
- その後は、会社は組合と協議すること
会社は、「事前協議の約束はしていない」と、明確に回答をした。
すぐさまユニオンからは、
「今すぐに団交だ!応じなければ不当労働行為だ!」
「5月X日とY日の2日に団交しろ!」
との回答が来た。
会社は「5月X日に一本化してください」と回答し、20XX年5月X日に、ようやく第1回目の団体交渉が行われた。
こうして団体交渉が開催されたが・・・
9月末での雇い止めは、突然通告され、説明不足だ!
その上、3月末で満了する契約更新時に、「9月末で雇い止めとするが、それに応じなければ更新は今回限りで6月末に契約解消する」と脅かされたものだから、この更新契約は無効だ!!
これは解雇通告と一緒だ~ッ!!
それから、組合事務所の供与と、ユニオンショップ協定と、チェックオフ協定を、暫定労働協約として締結してもらいたい!
会社からは3月X日に組合の支部長に正式に説明しています。
該当者10名全員を集めて説明し、個別にも説明しています。
4月1日には、再度確認の意味で今回の契約更新のお知らせを通知しています。
ですから、会社は説明責任を十分に果たしていると考えます。
それから、組合事務所を置くスペースはありません。
組合員数は当該事業場で過半数ではないのでユニオンショップ協定を締結する要件を満たしていません。
チェックオフ協定についても同様で、過半数組合ではないので、組合とは労使協定を締結できません。
したがって、会社がチェックオフを行えば、労働基準法第24条に違反してしまいます。
そもそも組合は、労使協定を結ぶ要件を満たしません。
まぁまぁ、労働協定を結んで仲良くやりましょうや。労働協定をねぇ。
・・・労働協定? それ労働協約と労使協定がごっちゃになっていませんか?
アレ~? そんなのどっちでもいいんですよ。
労働協定って言うんだよっ!細かいことを言うんじゃないっ!
いずれにしても、今回の9月末日の組合員5名を含む10名の雇い止めが、解雇権濫用の類推適用があったとしても、生産現場の人員縮小の必要性は、会社の存続のために避けることはできません。
ですから、雇用の密着度の低い契約社員から退職をお願いするのは適正な判断だというのが会社の結論です。
第1回目の団体交渉は、このようなやり取りで、ユニオンは9月末での雇い止めの無効と撤回の他、いつもお決まりの組合事務所の供与、ユニオンショップ協定とチェックオフ協定の締結を、よくありがちな「(暫定)労働協約(案)」として求めてきた。
会社は、雇い止めに関する説明責任は十分に果たしていること、その他ユニオンの要求には、法律に基づいて的確に拒否する回答をした。
団交に参加していた上部団体は、最大手のナショナルセンターであり、その年配の担当者は、労使協定と労働協約の意味の違いが分からず、労働協定と連呼し、会社から誤りを指摘されても認めなかった。
どうやら、労働組合法や労働基準法の基本を理解していないようだった。
最終的に会社は、例え解雇権濫用法理の類推適用があったとしても、生産現場の人員縮小の必要性は、会社の存続のために避けることはできないので、退職をお願いするのは適正な判断であるとの結論をユニオンに回答した。
団交の終了時にユニオンから、団交内での会社の回答内容を書面で欲しいとの要請があり、会社はこれに応じることを約束して終了した。
その後の団体交渉では・・・
6月中に、会社と非組合員5名の間で、9月末日をもって雇用期間満了の退職が合意された。
退職条件としては、各人の基本給の3ヵ月分を退職時の解決金とした。
その後、ユニオンから組合員の雇い止め撤回に関し、再度団体交渉の申し入れがあり、7月X日に第2回目の団体交渉が行われた。
9月末で雇い止めを強行するのなら、それは整理解雇だから徹底的に争うぞ!
解雇権の濫用だ~!!
いいえ、解雇ではなく、あくまでも契約期間満了による退職です。
ですから特別な理由は要らないし、解雇権濫用との指摘も当たりません。
第2回目の団体交渉では、ユニオンは今回のことは整理解雇で解雇権の濫用だと主張したが、会社はあくまでも契約期間満了による退職だとの主張を崩さなかった。
そして、7月X日に第3回目の団交が行われた。
契約更新しない理由について、会社の経営状況が原因だって言うのなら、組合が納得できる形で説明してくださいよ。
正社員の整理解雇と違い、業務量の縮小等の理由があれば、特別な理由は必要ありません。
ユニオンが主張する整理解雇の4要件とは、経営基盤が盤石な企業であればともかく、当社のような中小零細に適用できる理屈ではないし、この話し合いの場は団交であって裁判所ではないはずです。
第3回目の団体交渉でも、双方の主張は噛み合わず、今回の団体交渉も決裂した。
その後ユニオンは、雇い止め撤回のビラを会社の周辺に配布し、主要取引先に要請行動を行った上で、地方労働委員会に「団交促進」のためとして、「あっせん」を申し立てた。
交渉の場は、地方労働委員会の「あっせん」へ
9月X日、第1回目のあっせん期日が行われた。
雇い止めについては、労使間で協議を継続すること!
10月1日からの雇用期間を12ヵ月延長すること!
12ヵ月延長が承諾できないなら、それに代わる代償措置を検討すること!
既に5名については、9月末での期間満了退職で合意できています。
その5名の解決金は基本給の3ヵ月分ですから、この条件を上回る提案は承諾できません。
第1回目のあっせんでも、双方の主張は噛み合うことはなかったが、その後、労働委員会の三者委員を通じて、労使双方が再度、条件を詰めて来ることで次回期日を決めた。
そして、9月X日、第2回目のあっせんが急遽設定された。
期間延長がどうしても無理だって言うなら、基本給6ヵ月分の解決金で退職和解するけど、・・・どう?
期間延長はできません。基本給6ヵ月も厳しい。
もし、今回合意できなければ、9月末で雇い止めを予定通り行なわざるを得ませんし、その場合、解決金は支給しません。
・・・
第2回目のあっせんでは、このようなやり取りの後、前回同様に、労使双方が個別に三者委員と審問室で解決に向けて順番に協議を行った。
ここはひとつ、月例賃金の3ヵ月分を退職和解金額とする、ということでお互いどうでしょうかね~?
その後、紆余曲折はあったが、最終的にあっせん案として、月例賃金の3ヵ月分を退職和解金額とする案が提示され、双方合意に至って、第2回目のあっせんで和解が成立した。
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