事例-5 元社員が現社員と組合結成・・・

退職した元社員が現社員を巻き込んで組合結成、会社の保有する様々な情報の開示と未払い残業代の支払を求めて、団体交渉を要求してきた事例です。

【事件の概要】

当該会社(以下「会社」)は、従業員30名の電気機械器具製造を下請けで行ってきた会社。


半年程前から、取引先からの仕事量が激減し、経営も非常に苦しい状況に追い込まれていた。


経営の危機を察して退職した元従業員が中心となり、残業代の未払いを請求するために、現従業員を巻き込んで労働組合を結成し、従業員の半数近くが加入した。


以前の景気の良いときは、納期の関係もあり、恒常的に深夜時間帯までに及ぶことがしばしばあり、2時間から4時間の時間外労働が多く見受けられた。


残業代については、定額で個別に定めており、就業規則は、労働基準監督署の雛形を利用して作成していたが、届け出および周知はしていなかった。


第一回の団体交渉の申し入れがあり、開催場所は社内の会議室で、参加者は組合側は組合員全員の12名が参加した。会社側は、社長と実務担当者の2名が出席した。


ここでは、3時間30分に渡り、執拗な要求が繰り返されたが、なんとか次回の開催を約束して終了した。


第二回目の団体交渉も、同様の場所とメンバーで行われたが、かなり脅迫めいた発言が4時間に渡って繰り返された。


当事務所では、その後ご相談を受けて、第三回目の団体交渉から関与した。


このとき、既に社長は会社経営に対する意欲を失っていた。

【団体交渉の要求事項】

1) 雇用契約書の開示要求
2) 就業規則の開示要求
3) タイムカード2年分の開示要求
4) 賃金台帳2年分の開示要求
5) 未払い残業代を会社で計算し、組合に提示すること

【交渉の過程】

要求事項のうち就業規則とタイムカードは、既に組合にコピーが渡されていた。


第三回目の団体交渉は、開催場所を公共の施設とした。つまり、会社内では、時間が限りなく延長される可能性があるが公共の施設では、2時間しか借りないため時間切れで終了できる。また、社員以外の部外者である合同労組の組合員の会社内の立ち入りを阻止できる。


団交の参加者は、前回同様で組合側は12名、会社側は、社長と私の2名。


団交では、労基法37条違反は、刑事訴追の恐れがあるし、賃金の未払いについては将来民事請求される可能性があるから、雇用契約書の開示要求、賃金台帳2年分の開示要求、未払い残業代を会社で計算し、組合に提示することを拒否した。


第二回目で開示すると口頭で約束したことを「書面にて労働協約にしていませんから、正式の約束とは認められません」と主張。


これに対し、約束を反故にして資料開示をしない会社の主張に対して「約束違反だ、実務担当者は誠実に対応していたが、竹内社労士はまったく不誠実である」、「これは、不当労働行為である」「これでは残業代が計算できないではないか」「法律違反を助言する社労士は、東京都社労士会に対して懲戒請求するぞ!」「労働三権を無視するのか」等々相変わらずの言葉がいろいろな人から投げかけられた。


大衆団交により、交渉打ち切りも可能であったが、書面での回答を約束して終了した。


実際に、会社は未払い賃金を支払うことのできる状況ではないが、できるだけ誠実に対応するつもりだったが、度重なる大衆団交により、遂に社長から会社経営を断念するとの連絡があった。


翌週、社長は、全従業員を集めて、裁判所に破産の手続きをしたことを告げ、従業員全員を解雇した。


労働組合を結成し半年後、彼らは、「会社あっての従業員」という現実を思い知ることとなった。

【解決】

会社の清算によって全従業員を解雇。

【会社の解散に関する判例】

事業主が労働組合の存在や組合活動を嫌い、事業意欲を失い、解散に至ったわけであるが、判例では次のような判断が多数である。


「ところで、会社が解散(いわゆる真実解散)をした場合には、労働者の団結権の基盤である企業そのものが消滅してしまうのであるから、会社が不当労働行為意思をもって解散決議をしても、その解散決議及びこれを理由とし、あるいはこれに伴なう解雇は有効と解すべきである。


すなわち(イ)そもそも、企業主には職業選択の自由(憲法22条)の一環としてその企業を廃止する自由を認められているのであり、その自由は労働組合壊滅を動機とする場合でも制約されないものである。


ただし、労働者には憲法28条により団結権が保障されているが、この労働者の団結権の保障は企業が存続することを限度として成立しているものであり、しかも、企業には労働組合のため企業を存続させなければならない法律上の義務を負っていないから、企業が自己の意思によって企業を廃止しようとするとき、その企業は意思の自由は労働組合壊滅を動機としていても制約されることはない。


(ロ)もし、労働者の団結権の保障が企業主の持つ前記職業選択の自由よりも優先するものとすれば、労働組合壊滅を目的としてなされた会社の解散決議は公序良俗に反し無効であるとすることが理論上は可能である。


しかし、甲のように解した場合、企業はもっぱら労働組合のため企業の存続を余儀なくされ、かくては、企業の持つ営利性に反し、かつ、企業意欲を喪失した企業主に経営を強いる結果になるなど社会的にみて著しい不都合が生じる。


(ハ)したがって、企業者の持つ前記職業選択の自由は、労働者の団結権の保障よりも優先するものと解すべく、右(イ)の説示のとおり、不当労働行為意思でなされた会社解散決議でも、その決議は有効であり、これを理由とする解雇も有効というべきである。」

(裁判例多数・学説の有効説)

【大衆団交】

【大衆団交】

大衆団交とは、交渉担当者を定めない不特定多数の労働者(組合員)が交渉を担当する交渉方法、または交渉担当者たる交渉委員以外に多数の労働者が交渉に参加する参加方法、と理解できる。


上述の通り、憲法28条及び労組法が保護の対象とする「団体交渉」とは、代表者を通じての統一的交渉であり、そこでは十分な交渉権限を持った統制ある交渉団(交渉担当者)の存在が条件となる。


したがって、このような交渉体制が労働側に整っていなければ、使用者はその体制が整うまでの間交渉を拒否できるのが原則となる。

(労働法・第七版補正二版・P488)

【団体交渉の態様】

【団体交渉の態様】

団体交渉とは、代表者による統一的な取引ないしルール形成のための話合いであり、集団による交渉でも公開の追及の場でもない。


吊るし上げ、暴行、脅迫、監禁などは、団体交渉とは無縁である。したがって団体交渉が社会的相当性をこえてそのような態様になった場合には、使用者はその場で団体交渉を打ち切ることにも許される。

(労働法・第七版補正二版・P506)

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