うつ病で労災保険請求の要求があった事例
企業経営者様および経営者側の立場の方へ
組合対策は迅速かつ専門的な対処が必要です。少しでもお困りの際にはお気軽にご相談ください。
- 集団的労使紛争の内容及びユニオンの要求事項
うつ病に罹患した組合員の労災保険申請、残業代未払請求、パワハラの謝罪・慰謝料請求
- 会社の業種及び規模
情報システム開発 従業員数50名
- 組合概要及び組合員
東京都拠点のユニオン 勤続5年の34歳男性プログラマー 賃金30万円/月
- 紛争内容
20XX年3月X日 社長と総務部長が「うつ病で休業中の従業員がユニオンに加入したとの文書が送付されてきた。」併せて、「団体交渉を求める文書も届いた。」「どう対応してよいのかわからない。」と相談に来られた。
解決までの道のり
先ず、ユニオンからの団交申入書に記載された要求事項を確認すると、箇条書きで次のように記載されていた。
- 休業について労災請求するので、会社は協力すること
- 未払分の残業代を支払うこと
- パワハラを謝罪すること
要求事項はこの3点であったが、会社に事情を聴いたところ、時間外労働は1日に1時間程度であり、うつ病になるほどの長時間労働はさせておらず、パワハラについては初めて聞く話で、真偽は不明とのことであった。
会社としては、当該従業員の能力不足や協調性の欠如を理由として、これを機に退職してもらいたいという意向である。
会社には従業員がユニオンに加入することによって、人事管理の中で新たなルールが加わることを説明した。
つまり、労働組合法で定められた「団体交渉」「不当労働行為」「労働協約」の3つであり、会社が希望する解決の実現は、今後のユニオンとの協議次第であることを伝えた。
うつ病で休業中の従業員がユニオンに加入して、団体交渉を求める文書が届いたのですが、こんなことは初めてなので、どう対応したらよいのかわかりません。
無理もありません。皆さんこのようなことが起こると最初は戸惑いますから。
ユニオンからの3点の要求内容について、実際のところどうなんですか?
長時間労働と言われても、時間外労働は1日1時間程度でした。
パワハラについても寝耳に水で、まったく心当たりはありません。
なるほど。それで御社はこの問題をどうしたいとお考えですか?
彼は勤務態度は普通なんですが、能力的には今一つで協調性に欠ける言動もあるので、可能であればこれを機会に退職して欲しいと思っています。
従業員がユニオンに加入したことで、会社には労働組合法で定められた「団体交渉」「不当労働行為」「労働協約」という3つの新たなルールが、人事管理の中に加わることになります。
会社が希望する解決の実現には、これらのルールに従って、今後のユニオンとの協議を慎重に進めることになります。
こうして当該案件をお引き受けすることになったが、ユニオンからの団交申し入れ日が迫っていたので、会社から準備のため2週間程延期した候補日をユニオンに文書で回答し、2月X日に第1回目の団交が決定した。
また、文書のやり取りの中、組合員が休業予定の1ヵ月を超えることになり、ユニオンから休業延長の要請が来たので、会社は承諾の上、休職確認書も併せて郵送した。
第一回目の団体交渉を開催
当日の団交場所は、平日の午後、公民館を借りた。会社側の出席者は、総務部長とその部下、当協会2名の計4名が交渉員として参加した。
ユニオン側は、10数名で大挙してやって来た。会場にはイスが10個しかないため、ユニオンの参加者は10人程度が立ったままとなる。
そちらの会社側参加者は撮影しないようにするから、今日の団交の様子を撮影して、今回の団交に参加できない組合員に様子を見せたいんだが。
撮影には応じられません。
こんな大人数では正常な交渉の妨げになるので、交渉員以外の傍聴人は会場の外に出てもらえませんか。
ふざけんな! 何人参加しようがこっちの勝手だろ~ッ!
当社は10分程席を外します。その間に当社の要求に応じるかご検討ください。
もし応じられないなら今回の団交は流します。後日、日程を協議しましょう。
こうして会社側参加者はいったん部屋を出た。
数分後、ユニオンから呼ばれて部屋に入ると「撮影は行わないし、座るイスがある6名以外の傍聴人は部屋の外に出る。」とのことだったため、いよいよ団交が開始した。
彼は長時間労働により、うつ病に罹患したんですよ。
だから労災請求を申請するので、雇用契約書、就業規則、タイムカード、36協定のコピーを組合に提供すること!
組合員の時間外労働は、月に20時間程度ですから決して長時間労働ではありません。また、労災請求は基本的に本人請求なので、そちらでやってください。
労災請求に必要な書類は用意するのか?
必要があれば、労働基準監督署から連絡があると思うので、その場合、労基署に提出することで会社の対応とさせていただきます。
じゃぁ次に、時間外労働で未払分があるので、直ちに精算すること!
未払い残業代があるとの認識は会社にはありません。
組合がそのように主張するなら、根拠を示して会社に請求すべきです。
請求書が提出されれば、その内容を精査することはやぶさかではありません。
あーそうか、分かった。では後日こちらで計算して請求するよ。
ところで、パワハラについて謝罪する件はどうなんだ!?
組合の言うパワハラとは、いつ、どこで、誰が、何について、どのように行われ、なぜそれをパワハラと主張するのか、その根拠を示して貰わないことには回答のしようがありません。
無かったというのか!!調べもせずに!!
会社としても事実確認の必要があるので、組合がパワハラと主張するのであれば、その根拠と把握している事実を明らかにすべきでしょう!?
あーそうか、分かった。じゃぁ、こちらも具体的な事実を文書にして、後日会社へ郵送するよ。
第1回目の団交は、ユニオンの要求根拠と理由を確認することが会社の目的となる。
団交後にユニオンから、再度、タイムカード等の労務管理資料を求められたが、特に執拗に求められた36協定の写しのみユニオンへFAXした。
当該会社は、変形労働時間制は取っていないため、届出済みの36協定を開示しても、交渉上何ら不利益はないからだ。
また、このユニオンは、ほぼ「残業代未払問題」のみを問題にして交渉してくることが過去の経験から想定できたので、この問題については、より慎重な対応することを会社に助言した。
主治医との面談
3月X日、ユニオンと組合員に対して、休職期間の延長の適否は会社が判断するため、会社から主治医との面談を求める申し入れを行った。
すると、ユニオンから「組合員のプライバシー侵害に当たるので断る。」との返事が来た。
会社は「主治医から現在の病状を聞いたうえで、休職期間を延長すれば復職が可能となるのかどうかを会社は判断したい。面談に応じないのであれば、延長は認めず期間満了退職として扱うことになる。」と回答した。
ユニオンからは一転、「早速3月Y日に面談する。」との回答が来て、主治医面談はユニオンと組合員も同席して行われた。
先生、うつ病の原因が過労なのか、精神的プレッシャーなのか、個体的要因なのか、ズバリお答え願えませんか?
う~ん、主因は不明ですね~。現場復帰は現状では判断できませんね。
初診時と現在を比較して回復しているとは言えませんからね~。
そうですか! 組合員の健康状態が中途半端な状態では、復職を認めることはできません!
ちなみに、主治医の先生の面談料は、5,000円/30分であった。
非公式折衝
その後、3月Z日に組合員から会社に連絡があり、非公式折衝の提案があった。
会社近くの喫茶店で約40分程度の話合いを持ったが、その場には、組合員と担当者、こちらは総務部長を含む2名の計4人が参加した。
ユニオンからは、「組合員の生活が苦しいので、労災保険の休業補償ではなく傷病手当金を請求したい」という申し出があった。
法律的には、『業務上か業務外かはっきりしない場合は、一応業務上として取り扱い、最終的に業務外と判断された場合は、遡って健康保険を適用する(昭和28年4月9日保分発2014号)。』となっている。
それにもかかわらず、ユニオンが業務が起因していると主張しながら、労災保険ではなく健康保険給付を先にするのは、健康保険のチェックがかなり甘く、医師が労務不能を証明すれば傷病手当金は必ず支給されている現実があるからだ。
会社としては、本人の生活保障と、会社には財政的な痛みが生じないこと、そもそも傷病手当金は本人申請のため、本件申し出を承諾することにした。
労働基準監督官による申告監督
4月X日、労働基準監督官による申告監督がなされた。
組合員の氏名が明記された呼び出し状が会社に届いたのだ。
申告監督によって監督官からは、組合員の時間外労働割増賃金についてのみ指摘された。
会社の賃金規定で定められた手当の定義が曖昧であったが、監督官が是正指導できることは、労働基準法や安全衛生法などの法違反だけであり、民事へは不介入である。
そこで「現在、労働組合との交渉となっていて、決裂した場合には労働審判事件や提訴事件になる可能性が高いので、監督官への是正報告をさせていただいた場合でも申告者には具体的な数字は開示しないで欲しい。」と要請し、承諾を得た。
第2回目の団体交渉で解決への糸口が・・・
4月の末に第2回目の団交の申し入れがあり、5月X日に前回の会場より小さい部屋で行った。
監督官からの是正勧告の件は、どうするつもり?
労基署と会社の件については、組合に開示する法的な理由はありませんので、回答は差し控えます。
直接、監督官に聞かれたらどうでしょう。
組合員の残業代未払いの金額は、おおよそ150万円あるので、この金額を認めて即刻支払え!
残業代の未払はありません。あるというなら組合から詳細をご説明ください。
・・・しかしながら、会社も早期円満解決を望んでいますので、今回の組合の主張を持ち帰って検討し、打開策を提案します。
第2回目の団体交渉は、ユニオンから解決に向けた具体的な金額の提示が出てきたことで、いったん持ち帰って主張を検討し、打開策を提案するとして終わった。
交渉はまったく噛み合わず、双方の主張が一致せずに今回も決裂となったが、決裂すること自体は、団体交渉ではよくあることだ。
ただし、我々労使関係コンサルタントなどが間に入って、仲裁などを行うことを双方代理というが、これは弁護士でもやったら法違反となるため、絶対にできないことだ。
一方、当事者側に立って攻撃と防御が繰り広げられるのが通常で、これは個別労働紛争も同じで、使用者と労働組合との集団的労使紛争の一面でもある。
しかし、ユニオンという代理人から金額提示があったことで、円満解決の機運が出てきたと言える。
ほとんどの労使紛争が金銭和解で解決となる。
そのプロセスでは、途中色々あったとしても、射程の金額より高すぎる場合であっても、金額が出てくれば第4コーナーのゴール前となる。
第3回目の団体交渉から解決へ
このケースでは、第3回目の団交を6月X日に行った。初回の団交から会社は、円満解決を望んでいることを表明しているが、前回のユニオンから金額提示があったことから、今回、具体的な金銭和解の条件を提示した。
今回の紛争を解決するために、円満退職していただけるのであれば、会社としては賃金の2ヵ月分60万円を解決金として組合に提示します。
何言ってくれてんの!?
組合が考えてる残業代未払金に遠くおよばないし、パワハラの慰謝料分もまったく入っていない!こんな金額では到底検討に値しないよ!
またもや紛糾しそうな雰囲気で、「毎回こんな調子でしょうか?」と不安に思われる方もいるかもしれない。
しかし、金額の話までくれば、もうゴールは目の前、ほとんど終わったも同然だ。
金銭交渉においては、常に支払う方が有利な状況であることには変わりない。貰う方が弱いのは不変の法則。
会社はこの解決金を振り込むまでは、金融口座からお金は減ることはない。その反対にユニオンには、組合員の加入金と組合費が入っているだけで、会社からユニオン名義の金融口座に解決金が振り込まれて初めて真水となるのだ。
経済法則から考えれば、この交渉はそれほど難易度が高いわけではない。かえって日常業務での受注の方が厳しいと思えるくらいだ。要は何事も慣れということ。
このケースでは、ユニオンに加入し集団的労使紛争化してから、終結まで約6ヵ月を要したが、結論として100万円を超えない範囲で退職和解が成立しての円満解決となった。
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